ダスキン障害者リーダー育成海外研修派遣事業 第33期(2013年度)研修派遣生報告書「自立へのはばたき」 第33期研修派遣生(敬称略) 個人研修生: 小林功治(こばやしこうじ) 山本真記子(やまもとまきこ) 岩山誠(いわやままこと) 古田雅人(ふるたまさと) グループ研修生: 知的障害者グループ研修生 OSAMURAI☆じゃぱん(おさむらいじゃぱん)グループ 吉田佑莉香(よしだゆりか) 後藤真人(ごとうまさと) 宇井智恵(ういちえ) 谷口依久実(たにぐちいくみ) 西村昭人(にしむらあきひと) ダスキン障害者リーダー育成海外研修派遣事業実行委員会 委員(敬称略/任期:2015年4月1日?2017年3月31日) 八木三郎(やぎさぶろう)天理大学准教授、本研修派遣事業第3期研修派遣生 青松利明(あおまつとしあき)筑波大学付属視覚特別支援学校教諭 青柳まゆみ(あおやぎまゆみ)愛知教育大学障害児教育講座准教授、本研修派遣事業第18期研修派遣生 金塚たかし(かなつかたかし)大阪精神障害者就労支援ネットワーク統括所長 石川准(いしかわじゅん)静岡県立大学国際関係学部教授、本研修派遣事業第3期研修派遣生 尾上浩二(おのうえこうじ)DPI日本会議副議長 小林洋子(こばやしようこ)筑波技術大学障害者高等教育研究支援センター助教 山下幸子(やましたさちこ)淑徳大学総合福祉学部准教授 ダスキン障害者リーダー育成海外研修派遣事業とは 1981年、障がい者の社会への完全参加と平等の実現をめざして国連で決議された「国際障害者年」にちなみ、地域社会のリーダーとなって貢献したいと願う障がいのある若者たちに、海外での研修の機会を提供する「ダスキン障害者リーダー育成海外研修派遣事業」がスタートしました。 1982年に10名の研修派遣生を初めてアメリカへ派遣して以来、これまで34年間に延べ484人の研修派遣生を輩出し、帰国後その多くの方々が全国各地で、自立生活運動、政治、学術、教育、スポーツなど様々な分野でリーダーとして活躍されています。 今回の「自立へのはばたき」は、2013年度(第33期)の研修派遣生の研修報告書をまとめさせていただいたものです。個人研修生4名と1つのグループ研修生の9名が、夢と希望を持って世界各地で、何を感じ、何を学んだかをぜひご一読ください。 第33期研修派遣生の皆様、研修をサポートされたスタッフの方々、ご関係者の方々、愛の輪会員の皆様のお力添えに対しまして、改めて感謝申し上げますとともに、今後も「ダスキン障害者リーダー育成海外研修派遣事業」に格別のご理解とお力添えを賜りますよう、心からお願い申し上げます。 ※研修報告書の研修生のプロフィールは、研修期間中のものです。 ※障害の「害(がい)」の文字表記について、事業名称等定款に記載されている文言並びに法律用語については従来通りの漢字表記とし、それ以外については「害」を「がい」とひらがな表記とさせていただきます。 第33期(2013年度)ダスキン障害者リーダー育成海外研修派遣事業の流れ 2012年9月1日 募集開始 2012年11月30日 募集締切 2013年1月 書類選考 2013年2月2日 面接審査 2013年3月22日 研修派遣生決定 2013年3月30日~31日 事前研修会 2013年6月4日 壮行会 2013年8月7日~12日 知的障害者グループ研修生 OSAMURAI☆じゃぱん研修派遣 2013年12月~2014年6月 個人研修生 古田雅人さん研修派遣 2014年2月~6月 個人研修生 小林功治さん研修派遣 2014年3月~2015年3月 個人研修生 岩山 誠さん研修派遣 2014年4月~2015年2月 個人研修生 山本真記子さん研修派遣 2015年3月27日 成果発表会 個人研修生:小林功治さん研修報告 住所:愛知県 障がい:盲ろう 研修期間:2014年2月23日~6月29日 研修国と機関:アメリカHelen Keller National Center for the Deaf-Blind Youths and Adults(2月23日~5月18日)/スウェーデン盲ろう者協会(5月19日~6月26日) 研修テーマ:盲ろう者就労支援 研修目的:盲ろう者の定義の法律化の実現、盲ろう者の自立・就労支援施設を愛知につくる 「アメリカで学んだことを地元愛知の盲ろう者支援活動に役立てたい」 2014年2月末から6月末、アメリカに3ヵ月、スウェーデンに1ヵ月、「盲ろう者の就労支援」をテーマに学んでまいりました。初の長期の海外滞在で、日本との文化の違いに戸惑うこともありましたが、それを含めて本当に有意義な経験、そして学びを得ることができました。 ・現地での生活とコミュニケーション アメリカはニューヨークで研修を受けたヘレンケラーナショナルセンター(以下HKNCと略す)では寮生活で、シャワールームのついた個室で過ごしました。研修の時間は午前9時から午後2時30分、その後は寮に戻って、自室でその日の振り返り、インタビューでの質問事項を考えたり、研修の関連事項を調べたりしておりましたが、余裕のある時は全米から集まっているアメリカ人の盲ろう訓練生とラウンジでコミュニケーションを楽しんでおりました。訓練生は自分の得意としていることを放課後に講義させていただける機会があり、ある訓練生はガイドドッグ(盲導犬)を長年利用しているため、その講義をされていました。私もせっかくの機会でしたので、日本の手話、文化、アメリカと日本の盲ろう者福祉の違いを講義させていただき、70名ほどの訓練生と先生方が話を聞いてくださったことに大変感激したのを覚えています。 一方、スウェーデンでは研修施設がほぼ毎日違い、ストックホルムをはじめに4つの地方を回りました。スウェーデンでの1ヵ月はHKNCの仲間の存在の大切さに気付かせてくれた期間でもありました。とはいえ、研修に携わってくださった盲ろう者協会の方々には食事に連れて行ってくださったり、家に招いてくださったりととてもよくしてくださりました。 ・研修中のコミュニケーション、通訳 HKNCでの訓練生との日常会話はアメリカ手話(ASL)がメインでした。ほとんどの訓練生がASLが使えましたので、私も少ない語彙でしたがASLとアルファベット指文字を交えて、コミュニケーションをはかりました。訓練施設での先生とのコミュニケーションは音声英語、ipadにキーボードで英語を入力しての筆談、ASL、または聴覚障がい・盲ろう向けの通訳者が多く常駐していましたので彼らにipadで通訳してもらうことも多くありました。日英通訳を利用したのは自身の講演のときと、全国規模のテクノロジーの研修がHKNC内で開かれたときの2回のみでした。スタッフの3割ほどは聴覚障がい者または盲ろう者でしたので、日本でASLを学んでいたことは本当に役に立ちました。 スウェーデンでも音声通訳を使うことはなく、HKNC同様さらにあいさつ程度のスウェーデン手話も使いました。スウェーデン人は障がいを問わずほとんどの方が日常会話レベルの英語を習得しているのでコミュニケーションに困ることはありませんでした。 ちなみに両国では日本のように通訳として点字を使いませんので、日本でよく使われるブリスタ(通訳用点字タイプライター)は見かけませんでしたし、指点字の動画を見せたところ非常に驚かれていました。 ・文化の違いが支援に反映されている アメリカ、スウェーデンの盲ろう福祉は日本に比べ、深く、広いものでした。しかし、いくら現地で評価されている支援方法、施策であっても、それらすべてが日本で受け入られるものではないということも実感できました。 アメリカは「自分でやる」文化があります、それが自立であり崇高な理念です。過去に、盲ろうの東京大学教授福島智先生がHKNCで40年間歩行訓練担当しているGene先生に「介助者の重要性」を訴えてもGeneさんは理解できませんでした(ちなみに小林もGene先生に指導を受けました)。ここには両国の文化の違いがあります。 例えば、アメリカでは全盲の盲ろう者であっても独りで歩くことを求められます。実際に、施設内で全盲の盲ろう者は白杖を振って独りで歩いています。また、歩行訓練の一環で、街の中で「横断歩道を渡れるように手引きしてください」と書かれたカードを持ち、歩行者に助けてもらうことをしています。また、ITクラスの教室の壁に「independent」(自立)と書かれた大きなポスターが貼られています。これも「(通訳介助者とではなく、テクノロジーの力を借りて)自分で他者とコミュニケーションが取れるように。」という意味が込められているようにうかがえます。アメリカでは「自分でやる」、「独りでやる」を崇高な理念としますが、日本は古来から天災を受けてきた国であり、それらに対して隣人が助け合うことで生き延びてきた国民性があります。こういった日本人の「助け合う」または「共に生きる」という文化から日本の盲ろう者は通訳・介助員とともに歩むことを望みますし、アメリカのような支援方法を理解することは容易ではありません。そして、すべてのものは文化の上にあります。お互いの文化を理解せずにものの良し悪しは語るものではないと思いました。 ・日本で広めたいこと 「盲ろう者の就労」を考えた時、ネックになるのは①通勤、②コミュニケーション、③情報収集の3点となると思います。これらすべてにおいて、通訳介助者のサポートが重要です。しかしながら、現状の日本の通訳介助員派遣制度では通勤も含めて職場に通訳介助員を派遣することが認められていません。認められているのは就職前の面接のみです。基本的に盲ろう者が金銭的利益になることは認められません。アメリカ、スウェーデンでは職場での通訳者、介助者の利用が認められています。アメリカではSSP(Support Service Provider:州によって異なるが大半はボランティア活動)が歩行介助をしてきましたが、地方自治体のVR(Vocational Rehabilitation-職業リハビリテーション)部門による歩行支援も近年増えているようです。スウェーデンでは、介助者の派遣費は1週間に20時間までは市町村が負担しますが、それを超えると負担者は国に移りますので安心して利用することができます。通訳者については基本的に企業が負担します。地方自治体による助成もあるようですが、十分なものではないようです。ともあれ、職場に通訳者、介助者が派遣できることは日本も今後取り入れなければならないところです。とくにスウェーデンの通訳者教育は秀逸でしたので、以下に報告いたします。 スウェーデンにはフォークハイスクールと呼ばれる150校の専門学校のような教育機関があります(フォークハイスクールについては後述参照)。そのうち7校がろう・難聴者・盲ろう者向けの通訳者の養成を行っています。通訳者になるには4年間、週5日朝から夕方の授業を受け、そして試験に合格する必要があります。これらの学校に入学するために資格や経験は必要ありません。つまり、手話の知識がゼロであっても入学可能です。この4年間のうち、最初の2年間は主に手話を、次の2年間は主に通訳を学びます。また、1年目に盲ろう者の概要、手引き、状況説明を、2年目に点字とテクノロジーを、3・4年目には触手話、マニュアルアルファベット(日本で言うローマ字式指文字)、視覚障がいに合わせた手話の出し方、聴覚障がいに合わせた声の出し方などを学び、1年目に始まる手引き、状況通訳は4年間通して学びます。これらの盲ろう者通訳に関する時間数は1・2年目は20時間、3・4年目は50~60時間、4年間で合計150時間となっています。また心理学、英語、スウェーデン語、社会知識なども学びます。 学費は無料です。その他費用は、コーヒーや紅茶代が半年で6,000円ほど(スウェーデンでは仕事や授業の合間にコーヒーブレイクを必ず取ります。)いくつかの文献代金がわずかにかかる程度です。このように学費はほとんどかかりませんが、学生のみなさんは生活のためローンを組んだり、夕方や週末に働いていたりしています。 こういったNDBEDP(全米盲ろう者機器配布プログラム)のような政策ができるのも、それを支えている法律があるからで、これもまた日本にはないものです。アメリカでは、1990年に障がいを持つアメリカ人法(ADA)、1992年に改正リハビリテーション法(盲ろうの定義が初めて載せられた法律)が施行、スウェーデンでは2007年に北欧盲ろう定義、2009年に新差別禁止法が施行されました。 日本では2016年4月に障害者差別解消法が施行されます。障がい者の悲願の思いでようやくできた法律となりますが、アメリカ・スウェーデンに劣らぬ積極的なアピール、運営をしなければ宝の持ち腐れになってしまうでしょう。さらに「盲ろうの定義」はまだ日本にはありませんが、欧米諸国のように盲ろうが単純に聴覚と視覚の重複障がいではないこと、固有の障がいであることを法定義しなければなりません。これができた時に日本にも盲ろう者に本当に適した政策がうまれてくることでしょう。 ・スウェーデンの盲ろう者福祉の強さ 盲ろう者の社会参加状況を日本・アメリカ・スウェーデンで比べたところ、圧倒的な数を出しているのがスウェーデンでした。「社会参加」を通訳者や介助者を利用し、戸外に出ていることと定義したとき、日本、アメリカの盲ろう者の社会参加率は5%に満たないものです。大半の盲ろう者が社会資源を使わず、家の中にひきこもっているか、家族に頼っているかというのが日本・アメリカの現状です。しかし、スウェーデンはどうかというと、DB teamの職員の話によると、首都のストックホルムには約300人の盲ろう者が住んでいて、その半数150人が社会参加しているということでした。ほかの地方も2割ほどの社会参加率で日本、アメリカとは大きく開きがあります。 ・成功している盲ろう者が表舞台に立つ重要性 私がヘレンケラーナショナルセンター(HKNC)で驚いたことは訓練生が自立していることもそうですが、スタッフの構成にも大変驚き、感銘を受けました。HKNCのスタッフ(教師、事務職員、寮の職員など)の4割ほどが盲ろう、聴覚、視覚、肢体などなんらかの障がいをもっているということです。さらに、それらの多くの方が各部署の長として活躍されています。私はこの滞在の期間中17名の部長クラスの方々にインタビューをしましたが、通訳部の部長とインタビューした際に、音声の英語で自己紹介を始めたら、「私、ろうなんだけど。」と言われて大変驚きました。盲ろうの世界では日本でもろう者が通訳介助員としてたくさんの方が活躍されていますが、まさかコーディネートもする部長さんがろうだとは思いませんでした(HKNCの中ではアメリカ手話を誰もが常に使っているので、話してみないとろう者と聞こえる人の区別がつかないというのもありました。) こういったことを常務理事のSueさんに伺ったところ、これらの障がい者の方がポストにつくことで、将来に不安を感じているであろう研修生の成功モデルになるということと、アイデンティティーを共有できるということでした。常に能力のある障がい者を探している、今後重役にも盲ろう者を増やしたい(現在10名のうち1名が盲ろう者)ともおっしゃられていました。スウェーデンも似た状況がありました。FSDBの事務局スタッフ7名全員が盲ろう者でしたし、傘下組織のDBU(盲ろう者青年部)総会の運営スタッフ約10名もまた全員盲ろう者でした。両国のこれらの方々は本当に能力が高く、この仕事ぶり、背中を見ていれば、自立に向けて努力している盲ろう者もやる気が保たれますし、将来に光を感じることができるだろうと感じました。 ・まとめ この研修を終え、いま振り返りますと、愛の輪さんの用意していただいた引き出しのない箪笥に私は多くの引き出しをつくり、さまざまなモノをつめこむことができました。盲ろう者が社会の中で働くことで、すなわち、違った価値観を持つ人の中で生きることで、あるときはなかなか自分を理解してもらえず不満を感じたり、あるときは共通の目的をチームで達成し気持ちを共有できたり、そんな、自宅でひきこもっていては決して感じることのできなかった人として当たり前の喜怒哀楽を感じることで盲ろう者は人として成長できるでしょう。このお手伝いをしたいことは今も変わりません。 私が今後日本ですべきことは、長期的には盲ろう者の定義の法律化を実現し、盲ろう者の存在を広く社会に知ってもらうこと。その流れで、NDBEDPのような政策を作ってもらい、盲ろう者の豊かなコミュニケーションと就労の活性化につなげることでしょう。そして早い段階でHKNCのような自立・就労支援施設を愛知につくることです。 帰国後の1ヵ月の間に、ある方から、「7月にアメリカに福祉を学びに行くから仲介してほしい」というご依頼が2件あり、お手伝いさせていただく機会をいただきました。今後とも多くの方に欧米に渡り、学んでいただきたいですし、逆に欧米の方に日本に来てほしいと思います。その架け橋になることも学ばせて頂いた者としての役割だと思っております。 今後も続く愛の輪研修生のご活躍を微力ですが支えることができたらと思っております。 個人研修生:山本真記子さん研修報告 住所:京都府 障がい:聴覚障がい 研修期間:2014年4月8日~2015年2月15日 研修国:フィンランドほか欧州各国 研修機関:フィンランドろう協会 Finish Association of the deaf 研修テーマ:国際協力への糸口をつかむ 「フィンランドで学んだろう者の支援活動を国際協力事業として世界に広める研究に役立てたい」 ・ヘルシンキのValkea talo「白い家」 ろう者や聴覚障がい者の教育や雇用などを支援する「国際協力への糸口を掴む」を研修テーマに、研修先に選んだのが、世界的なろう活動の拠点となっているフィンランドのヘルシンキにある「ライトハウス」とも呼ばれているValkea talo=白い家です。フィンランドろう協会(FAD)と世界ろう連盟(WFD)の事務所が同施設内にあり、Valkeataloは世界的なろう活動の拠点となっている。ライトハウスには、FADやWFDの他にもデフクラブ・フィンランド難聴協会・ろう児や難聴児を持つ親の会・手話通訳者養成機関などの諸団体が居を構えています。 今回私はFADの中に個室の事務所を準備いただき、国際協力関係についての調査を進めました。ここを拠点にフィンランドだけでなく、ヨーロッパ各地の国際協力状況についての調査も行いました。 ・フィンランドろう協会(FAD)の事業 FADはNGOとしての役割を担っており、ヘルシンキ市の財源を使用して運営されている。(個人から資金を受け取ることはない。)デンマーク、フィンランド、ノルウェー、スウェーデン4カ国の聴覚障がい者協会がコペンハーゲンで初めて北欧会議を設立した事をきっかけにして1907年に設立された。 ろう者への生活サポートのほか、ろう児をもつ家族へのサポート体制を整えている。 日本と同様、各地に支部があり、約80人の職員で構成されている。(ヘルシンキ在職者は40名、他の40名は各支部へ配置されている)また手話通訳者の養成やテレビ、WEB、マガジンの制作チームもある。 政府からデフクラブ(フィンランド国内:42支部)への支援金:140万ユーロ、うち、FADは320万ユーロと寄付金で運営している。 運営は、政府より90万ユーロ(約1億3050万円)がFAD(フィンランドろう協会)に寄付されており、これを10のプロジェクトの資金に充てている。プロジェクトの内容としては、①連盟の活性化、②ろう女性の就学、就職の促進、③聴覚障がい者に手話を教える、④手話通訳者の養成などがある。 国際協力としては、25年間途上国の支援を行なっている。以前は11カ国を支援していたが現在は8カ国。 ・FADが支援している国 (2014年現在) 8カ国:アルバニア、ガンビア、ウガンダ、マラウイ、コソボ、エチオピア、タンザニア、カンボジア ・WFD(世界ろう連盟)の事業 1951年にイタリアで開催された「第1回世界ろう者会議」の開催中に設立された、各国のろう者団体を統括する国際的非営利団体。2015年2月現在、加盟国は134カ国。(日本も含まれている。) 【役割および教育システム】 「世界中のろう者の人権を確実にすること」=全て人は平等である。 途上国ではろう者の権利が見落とされている。彼らには教育を受ける機会がない。 社会の偏見は聴覚障がい者の完全な人権を阻害している。世界に存在する約7,000万人のろう者のうち80%は教育を受けていない。約5,000万人のろう者が発展途上国に住んでいる。 世界にいるろう者のうち、手話で教育を受けられているのはわずか1~2%。発展途上国ではろう者の権利が見落とされており、ろう者は世界で最も貧しい層に属している。また言語のない子供たちは隔離されている。大半の途上国のろう者団体はろう者の権利を促進していくために必要な人的・財政的な基盤(=全国的なろう者団体)を持っていない。教育へのアクセスが悪く、通訳者も欠如している。手話で教育を受けている聴覚障がい者は全世界で1~2%ほどしかないと言われる。 WFDは1987年、途上国のろう者の現状改善を優先事項とすることを決定した。 WFDは国際連合とその機関に対し、ろう者特定の問題と方針について助言している。 国際連合の組織内で協議するための地位を有する。世界各国の【障がい者の権利に関する条約】に関する資料をまとめる。エルサルバドルやアゼルバイジャンなど、ろう運動(障がい者運動)が遅れている国に対して現地の人々にフィンランドの現状や国際連合の規約や障がい者権利条約などについて指導する。→現地人が自国の政府に対して働きかけ、要望提示するための手助けに繋げる。国連システム内で聴覚障がい者コミュニティを代表し、コンサルティングや専門知識とアドバイスを提供することによって、世界の聴覚障がい者協会を支える。 ・FADとWFDの関連性 1.世界ろう連盟(WFD)の歴史(www.wfdeaf.org) 全世界で約7,000万人のろう者の人権を推進する国際的な非政府組織。 2014年現在、134カ国の連合体が加盟している。WFDはイタリアのミラノ会議において結成され、最初の所在地はイタリアにあった。その後、役員としてフィンランド人のLiisa Kauppinen氏が選出された。WFDは資金難の問題でスイスに移転された。その後、再び資金難の問題でスウェーデンに移転され、2年間、スウェーデンろう協会(=SDR)の事業のひとつとしてWFDが運営されていた。さらにその後、2001年にフィンランドへ移転することとなった。 当初はFADの事業の一環としてWFDの事業を進め、支援チームとしても共に運営しており、事業に問題はなかったが、ここでもまた資金の問題で組織変更し、2012年からFADとWFDは別の組織として独立することとなった。 WFDの使命は、【聴覚障がい者の権利と完全な参加、自己決定、手話、教育、雇用、社会生活を含め、すべての生活部面について平等なアクセスを促進すること】とある。 WFDは国連で協議資格を有しており、国際障がい同盟(IDA)のメンバーでもある。 【FADが今後目指すテーマ】International development of the Deaf 聾者の国際的な成長。Poor Deafs in countries 貧困国の聴覚障がい者。Social health in Europe ヨーロッパの社会的健康 ・資金運営について ◆FAD 2013年には職員への給料、運営費、郵送料などを除いた742,061ユーロの資金で事業展開した。資金集めの専門事業は1990年から開始された。 寄付金を集めるための資料を作成し、寄付先の窓口を広くPRしている。 またフィンランドだけでなくスウェーデンにも配布するよう計画している。 FADにはスウェーデン語に翻訳する担当者もおり、翻訳後、理事長のMarkku Jokinen氏の承認を経て発送している。 ・資金運営について FAD 資金元 ray(フィンランドのゲーム会社。売上金を障がい者団体などに寄付する)からの資金→全資金の47%を占める。finnish ministry for foreign affairs(MFA=フィンランド外務省)からの資金。membership fees(各国からの会費)。Donations(寄付金) 使用方法 Western Union(西部組織)=アフリカなどへの支援金 。事業運用費。 WFD 資金元 finnish ministry for foreign affairs(MFA=フィンランド外務省)からの資金。Donations(寄付金)。各国からの会費。 使用方法 スタッフの給料、事業費など ・FADの開発協力(国際協力)事業 モットー:「パートナーシップは対等である」 FADの国際活動は、1980年代半ばに始まった。FADはアフリカの国への伝統的なパートナーに加え、ロシアやバルカンなどの分野への開発協力を拡大してきた。FAD開発プロジェクトの資金は主にフィンランド外務省から受給された開発協力基金によって主に賄われている。 開発協力の仕事はFADの国際的事業の大部分を形成している。2014年現在、FADは10プロジェクトを進捗中。姉妹組織とのプロジェクトはアフリカ、東南アジアおよびバルカンで実施されている。外国の内閣・省と関わり、現地ろう連盟の活性化に関するプロジェクトを展開している。外務省(ministry for foreign affairs=MFA)が92.5%、FADが7.5%の出資をして事業を進めている。プロジェクトはフィンランド外務省によって運営されている。FADは年10万ユーロの資金を使って途上国への支援を行なっている。 ・FADが目指す開発協力プロジェクト 聴覚障がい者たちの生活の質を向上させるために、教育や通訳サービスなど、ろう者のためのサービスの質と量を向上させる。聴覚障がい者の家族、一般市民や関係者に対し、ろう者や聴覚障がい者の権利、機会、文化など問題に関する情報提供をする。聾学校教師に対する手話指導を行なう。手話の研究、辞書の作成、通訳の実施。ろうの子どもたちの初等教育のクラス・アシスタント。聴覚障がい者の雇用のための必要条件の改善。 ・国際協力のまとめ FADの国際協力は、「支援すること」よりも「連携すること」を重視している。お互いの情報を交換し、つながりを続けてゆくこと。それが相互協力となる。なお、ユーゴスラビアは聴覚障がい者の指導方法を知らないという現状があるという。ろう協会を指導しているのが健聴者であることも一因。ろう文化の認知度を上げることに重点を置いている。 1年間、現地の聴覚障がい者たちを指導し、活動に向けた力を奮い立たせた。そして2~3年間ともに活動した後、協会を設立させた。土台となる【知識】がなくては、協会が設立されても発展しない。まず基礎知識を付けるために学習する。実際に国際協力が展開されるのはその後から。 ・国際協力のあり方 ①政府⇔政府、②NGO⇔政府、③NGO⇔NGOの連携がある。 FAD(フィンランドろう協会)とANAD(アルバニアろう協会)は③の区分となる。 国際【支援】ではなく、国際【連携】に近い。「支援」するのではなく、「連携」している。 困ったら相談しあい、共に活動する。知識の交換をする。 失敗を恐れない。失敗したらやり直し、成功するまで活動する。 ・FADの今後のテーマ 2015年にはアルバニアへの支援計画を終了する予定。完全に関係を断つのではなく、直接的な支援を終了させ、アルバニアのろう連盟が自力でろう社会を良くしてゆく過程を見守る。またワークショップを行ない、新しい手話を決めて冊子を作っていく予定。 ◆疑問に思ったこと 『なぜ聴覚障がい者でなく健聴者が主担当を担っているのか?』FADの国際支援事業の職員は主に健聴者のみで構成されていたので、その理由について質問してみた。→FADは、「貧しい」国を支援している。「貧しい」ということは、現地の人々の学力が低くなることにも繋がっている。聴覚障がい者が主担当となって現地の聴覚障がい者に対し英語を使用した支援をするにはコミュニケーションの限界がある。聴覚障がい者が実際に交渉するよりも、健聴者どうしで英語のやり取りをする方が、政府へ打診する際にスムーズ。現地でコミュニケーションについて指導をしていくには健聴者の方が融通がききやすいという現実がある。 以前、聴覚障がい者が主に担当していた時期があった。彼女はカンボジア支援担当をしており、現地でも事業に取り組んだ。その結果、コミュニケーション不通に大きなストレスを感じ、疲れきって帰ってきた。その後、彼女はまもなく退職したという。 現地において、聴覚障がい者が「ろう者のパワーアップが必要!健聴者と同じ権利を!」と活動しても、「なぜ聴覚障がい者の権利を重要視しなければならないのか?」「聴覚障がい者は劣っているから話を聴く価値がない」と一蹴されてしまう現実がある。 本来ならば、聴覚障がい者と健聴者が共に事業展開をしてゆくのが理想的ではある。 ・海外研修を終えて 研修期間中には、多くの経験と出会いに支えられたと実感している。 終了間近には、「研修の総括として学びたい!」と志していた計画が実行できず自己嫌悪に陥ってしまい、帰国後も数日は気の抜けた生活を送っていた。 今後は「良い経験が出来た」と終えるのでなく、今後も自己研修としてダスキン研修期間中に達成出来なかった事を実現させてゆきたいと考えている。私の研修は、終わったのではなく始まったのかもしれない。今後も自分の可能性を広げる生き方をしてゆきたいと思っている。 最後に、私に貴重な体験をする機会を与えてくださったダスキン愛の輪事業関係者の方々、およびヨーロッパ各国の現地の方々、応援いただいた方々、その他の関係者の方々へこの場をお借りして深く感謝申し上げたい。 素晴らしい経験の機会をいただき、本当に有難うございます。 【参考】世界でろうあ連盟が設立されていない国々 ・ろう連盟を持たない国 ガボン、アンゴラ、ヨルダン、イラク、オマーン、ミャンマー、ラオス、パプアニューギニア、ベリーズ、コスタリカ(以前は連盟があったが、現在は無くなったとのこと)、ジャマイカ(健聴者が率先しているとのこと、また聴覚障がい者の車の免許取得が最近認められたばかりであるとのこと) ・ろう連盟はあるものの、状況把握が困難な国およびWFDとのコンタクトがない国 アゼルバイジャン、モンゴル、リビア、西インド諸島、レユニオン(フランス共和国の海外県ならびに海外地域圏)、シリア(戦火の状況下、4年ほどコンタクト無し) ・ろう連盟はあるものの、活動が弱く、また海外からの支援を受けていない国 ドイツ、イギリス(昔は活動が強かったが、現在は活動力が弱まっている)、ミャンマー、 その他 ・最近WFDに調印した国 モーリタニア(134カ国目)、ハイチも来年あたりに調印する意向を示しているとのこと。 ・参考 その他の国際協力関係にある国同士 フィジー(オーストラリア、ニュージーランドからの支援を受けている)、グリーンランド(デンマークからの支援を受けている) ・今後、全日本ろうあ連盟としても国際協力に携わる機会が出るかもしれないので、今回の調査がその際に役立つと良いなと考えている。 個人研修生:岩山 誠さん研修報告 住所:鹿児島県 障がい:聴覚障がい 研修期間:2014年3月24日~2015年3月10日 研修国と機関:イギリス セントラルランカシャー大学、iSLanDS:手話・デフスタディ国際研究所、International Institute for Sign Languages and Deaf Studies/フィンランドろう協会(FAD)/ノルウェーろう協会(NDF) 研修テーマ:聴覚障がい者の職場におけるコミュニケーション支援体制の現状に対する調査・研究 「イギリスや北欧で学んだことを日本の聴覚障がい者の就労支援に役立てたい」 ・研究の背景と目的 今回の留学の原点は職業上の体験にある。平成14年に厚生労働省東京労働局に採用されてから公共職業安定所の障害者担当部門で障がい者を対象とした職業紹介および職場定着支援業務に携わってきた。自分自身もろう者で手話ができることもあり、とくに聴覚障がい者の支援に関わることが多かったが、彼らの就労上の問題において職場定着の困難さは特に大きな課題となっていた。彼らに適職と思われる会社を紹介し就職が決まっても短期間で離職して再び職探しをするケースが後を絶たなかったのである。就労継続しているケースでも、職場定着指導で彼らの職場へ出向くと職場に対する鬱積した不満を吐露されることが珍しくなかった。彼らの不満の内容は様々であったが、相談を通してその根底的な原因を探ると大抵コミュニケーション上の問題に突き当たったものである。彼らの同僚・上司とのコミュニケーションは口話・筆談中心であり、研修や会議はもちろん毎日の朝礼にさえ手話通訳者がつかないことが大半であった。このようにわが国では、聴覚障がい者が職場で必要なときにいつでもコミュニケーション上の支援を利用できる制度は未だに整備されていない状況にある。 聴覚障がい者とその雇用企業にとってより望ましい就労の形を構築できるようにするためにも、聴覚障がい者の職場定着を確実に支援する体制づくりに加えて職場におけるコミュニケーション支援を提供する制度を創設することが必要であると考えたことから、大学院でこれらの課題に関する研究に打ち込んだ。その中で、障がい者の就労をトータルな視点でサポートすることを目的としたAccess to Work(以下、AtWと略す)制度がイギリスにあることを知り、今回の留学では、イギリスでの現地調査を通して、AtWの全容を明らかにしようと試みた。さらに、先進的な手話通訳制度を持っているといわれるフィンランド、ノルウェーにも飛び、その制度の実態を取材した。これらの国々における取材内容を比較考察することによってわが国での職場におけるコミュニケーション支援制度構築を目指すための今後の議論の方向性を示すことが本稿の主眼である。 ・研究拠点 英国で研究拠点としたところは、中西部地方の小都市プレストンにあるセントラルランカシャー大学のInternational Institute for Sign Languages and Deaf Studies (iSLanDS:手話・デフスタディ国際研究所)で、手話およびデフスタディに関する研究機関である。同研究所は、ドイツ出身の所長、ウルリケ・ゼーシャン教授をはじめ様々な国から集まったスタッフで構成される国際色豊かなアカデミックチームによって世界規模で手話言語学とデフスタディに関する研究と教育に取り組んでいる。さらに、発展途上国におけるデフコミュニティに関する社会的、政治的、教育的な利益をもたらすような活動も主要な目的とされており、インド、トルコ、インドネシア等で手話の普及や意識啓発などの援助活動が展開されている。 ・イギリスにおけるAccess to Work(AtW)制度 AtW制度の概要 目的および対象者 英国雇用年金省が下部組織であるjobcentreplusを通じて、就労を目指す障がい者や就労中の障がい者に対し、面接・通勤・業務遂行等の場面で障がいに起因して生じる支障を克服するために必要となる実用的な支援を提供することを目的とした制度である。 被雇用者もしくは自営業者としてフルタイムまたはパートタイムの有償の仕事に就く障がい者の他、ワークトライアルなどの政府による就労促進プログラムを利用して試行的に就労する障がい者も対象となる。政府機関の職員である障がい者に対しては、雇用主である政府機関自身が支援を提供することが求められており、同制度の対象とはならない。 英国平等法との関係について AtW制度と平等法は互いに補完しあう関係にある。平等法により事業主は障がい者に対して合理的配慮を図る責任を負うが、その配慮が事業主にとって合理的とみなされる範囲を超える場合はAtWがその配慮を提供することになる。ただし、逆に配慮が合理的とみなされる場合においてAtWはその配慮を提供しないため、事業主が責任をもって配慮を提供する必要がある。 ・聴覚障がい者に対する具体的な支援内容 面接時のコミュニケーション支援 聴覚障がい者など意思伝達能力に関わる障がいを持つ者が就職面接で通訳者又はコミュニケーターを手配するための費用を援助するものである。支援の利用は1回あたり通常2時間までとされているが、面接に適性試験などが含まれるケースでは例外的に時間延長が認められることがある。 支援を行うサポートワーカー(SW) 障がい者が職場で業務を遂行する際や職場へ通勤する際など就労において必要となる支援を提供する者である。本研究に関連が深い手話通訳者については、「手話通訳は、聴覚障がい者又は難聴者のために英語から手話へ通訳ができるよう特別な訓練を受けた人々である。」と定義し、ミーティングや研修、会議など職場の各種場面における通訳の困難さの度合いに応じて推奨される通訳者の最低レベルを提示している。さらに、手話通訳者が業務を円滑に遂行できるようにするために配慮すべきこととして、「通訳者が休憩をとらずに2時間以上通訳することを要求してはならない。そのような場合は2名以上の通訳者が必要とされる。」ことが示されている他、通訳支援の内容について利用者とAtWアドバイザーが合意する際に検討すべき事項が詳細に例示されているなど、手話通訳者の業務を具体的に想定した内容となっている。このSWの利用の仕方について、実際に支援が必要なときだけでなく、業務時間中にわたり常駐させることもできる。また、利用者が出張する際にも随伴することができ、海外出張にも同行させることも可能である。 助成費用 基本的にSWに対する報酬額の上限は設けられていない。(ただし、2015年10月以降は一定の上限額が設けられることになっている。)SWの交通費は時間給に包含されることになっている。またSWが業務を遂行するために必要となった宿泊費や食費についても援助を受けることができる。さらには、利用者の海外出張にSWが随行するために必要となる交通費や宿泊費などの費用についても支援の必要性が認められれば助成を受けられる。 ・フィンランドにおける手話通訳者派遣制度 制度概要 同国では2010年に「障がいを持つ人に対する手話通訳サービスに関する法律」が施行されている。同法はすべてのろう者、難聴者、盲ろう者、そして重度の音声障がい者が1年間に最低180時間(盲ろう者は360時間)以上の通訳サービスの提供を受ける権利を明文で保障している。この時間以上に通訳サービスを必要とする場合はさらに追加時間を請求できるため、事実上上限はない。 サービスを利用するための要件を満たしてひとたび承認を受ければ無期限に利用でき、毎年更新するといった手続きの必要もない。サービスを利用するための自己負担や追加的な負担(通訳者のための入場料や交通費、授業料等)を求められることもない。利用できる場所や時期、時間、方法について制限を受けることはない。 ・ノルウェーにおける手話通訳者派遣制度 制度内容 聴覚障がい者が通訳サービスを利用することについて、「National Insurance Act」という法律によって権利として認められている。同法では、各種の障がい者が社会生活を営んでいくうえで必要となる支援サービスを包括的に提供することを内容としており、通訳サービスはその支援サービスの一つである。利用時間の上限は徐々に緩和され、10年前に上限が撤廃された。 障がい者に提供されるサービスのうち通訳サービスはろう者、難聴者、盲ろう者が利用できる。制度を利用する手続きを済ませれば永久的に利用でき、利用資格に関する更新手続きなどは必要ない。 通訳サービスを利用できる場面の範囲、費用について、生活関係、教育関係、仕事関係のほぼすべてが対象となる。具体的には、自動車学校、料理教室、家族の誕生日パーティ、結婚式、洗礼、旅行などへの派遣実績があり、派遣できる範囲にほとんど制限はない。但し、派遣できる時間帯は原則として日中に限られる。派遣費用はすべて公費で賄われ、自己負担は一切ない。 ・わが国におけるコミュニケーション支援制度構築に向けて イギリスやフィンランド、ノルウェーにおける調査を通して得られた知見をふまえて、比較的な視点に基づいて検討することにより、わが国において職場におけるコミュニケーション支援制度創設に向けた議論の方向性を示したい。 制度上の利用者の位置づけ フィンランド、ノルウェー両国とも手話通訳サービスを利用することについて法律上の権利として明確に保障している。一方、イギリスにおいてはそのような旨を定める法律上の規定は存在しない。AtWはあくまでも政府によって障がい者の就労の促進及び安定を図るために設けられた政策上の制度にすぎない。AtW制度では、利用資格やサービスの内容について、制度当局スタッフであるAtWアドバイザーが利用希望者からの申請内容を審査したうえで判断することになっており、最終的な決定権はあくまでも制度当局者によって握られている。さらに、利用者はいったん利用できるようになっても、職場・職務内容が変わるたびにこうした審査を受け直さなければならない。フィンランド、ノルウェーでは、原則として政府当局によって利用内容を制限されることはなく、利用資格についてもいったん認定を受ければ永久的に保障されるのとは対照的である。 わが国でも、現行の手話通訳サービスを利用できる範囲については役所の裁量によるところが大きく、イギリスと同様の状況にあるといえる。このことをふまえるならば、通訳派遣に関する新制度を創設するにあたっては、利用者のサービス利用権を法律に基づいて明確に保障することが望ましいと思われる。 通訳者派遣費用の負担のあり方 北欧両国ともイギリス同様に一部のケースを除いて派遣費用は公費により賄われている。これとは逆のシステムを採用するのがアメリカである。アメリカでは、アメリカ障害者法(ADA)により、政府機関や教育機関、民間事業所に対して過度の負担とならない範囲で合理的配慮の提供を義務付けていることから、例えば聴障者を受け入れた事業所は自費で手話通訳者の手配をしなければならないとされている。これまでの取材の中で何人かのアメリカ人ろう者から、障がい者に対する合理的配慮の提供による人件費の増大を懸念する事業所が障がい者の採用を躊躇する傾向がみられるという指摘があった。学校や事業所が聴覚障がい者の受け入れに及び腰になってしまうことがないよう、通訳者の派遣費用については公費による負担が望ましい。実際、AtW利用者への取材でも、まさにこうした点にこそAtWの意義があると指摘したろう者もいる。我が国においても障がい者の雇用促進という観点からするとアメリカ方式ではなくイギリスや北欧両国における公費負担方式を採用することが望ましいと思われる。 利用者ニーズの充足 これについては「利用できる場面の範囲」、「利用可能な時間帯」、「通訳者の質」の観点に分けて考える必要があろう。まず、利用できる場面の範囲について、イギリスの場合は職場における職務遂行および採用面接に限定されているのに対し、北欧両国についてそのような限定はなく生活上の幅広い場面でサービスを利用できるようになっている。つづいて利用可能な時間帯については、北欧両国は日中の通訳者派遣を基本としており、夜間の通訳者確保には困難が伴う一方、イギリスの場合は対応できる手話通訳者さえ見つかればいつでも利用できる、という点で優位にあるといえる(就労上の場面に限定されているが)。最後に、通訳者の質をめぐっては、通訳者を自分で選べるかどうか、さらには通訳者を派遣する側が利用者への配慮を尽くしているかどうかが関わってくると思われる。イギリスの場合、通訳者を自分で選べることから、とくに技術面についてはさして目立った不満は聞かれなかった。それに対して北欧両国では手話通訳者を指定できず、派遣当局による判断となるためか、利用者の間では手話通訳者に対する不満が比較的高いように見受けられた。 以上の議論をふまえるならば、わが国においても利用者ニーズを充足する観点からは就労面に限らず社会生活上のあらゆる場面において手話通訳サービスを提供すること、手話通訳者の選定において利用者の意向をできる限り反映させられるような形式にすることが重要といえるであろう。 制度の受益者 この視点は我が国において通訳サービスに関するより強力な制度作りを求める際の運動戦略に関わってくる。イギリスやノルウェーのように全障がい者を制度の対象者とする場合は、他の障がい者団体と連携を組むことにより、政府や議会に対してより強力な圧力をかけやすくなる半面、運動を展開する際の方法や目指すべき制度の内容に関してそれぞれの思惑をすり合わせて合意するまでにかなり時間がかかるという懸念もある。 ・終章 北欧両国において共通しているのは、ろう者の失業率が高い水準で推移していることである。就職が難しい背景には、障がい者の雇用を促す法律がないこと、公共職業安定機関が障がい者の就労支援に積極的でないことが考えられる。一方、就職後は先進的な手話通訳者制度を活用して管理職に昇進したり、自ら起業したりするケースがみられるという点でも北欧両国は共通している。 イギリスも北欧両国と同様の状況にあるが、日本では逆の状況であるといえるだろう。我が国では、障害者雇用促進法による法定雇用率制度のもとで公共職業安定所が障がい者の雇用促進に積極的に取り組んでいる一方で、就職後の職務遂行をめぐる支援についてほとんど目立った施策は見られない。そのために多くの聴覚障がい者が職場で会議や研修で通訳者を確保するために苦労しており、効果的な職務遂行が困難となる結果として能力を十分に発揮できないという能力不全感にさいなまれている。 現在の我が国の労働行政のあり方は、就労支援を「就職までの支援」という意味に矮小化してしまっているような様相を呈している。障がい者が真に必要としているのは、就職後に職務を円滑に遂行できるようにするための支援も含めたトータルな視点に基づく就労支援である。職場も含めた様々な場面で手話通訳サービスを利用できる制度をわが国でも創設できれば、「就職支援」と「就職後の職務遂行支援」の両立が実現することになる。そうした方向へ我が国の就労支援の取り組みを正していくことが今後の課題となる。このような課題に対処していくうえで本稿がその一助となれば幸いである。 最後に研修先の所長であるウルリケ先生のお言葉を記して筆をおきたい。「障がいをもつ者の能力を活用しないことは社会にとって大きな損失である。」 個人研修生:古田雅人さん研修報告 住所:千葉県 障がい:肢体不自由 研修期間:2013年12月21日~2014年6月20日 研修国:アメリカ 研修機関:カリフォルニア州オークランド Cerebral Palsy Center for the Bay Area(重度障がい者にデイプログラムを提供する非営利団体) 研修テーマ:障がい者雇用支援の現状を学ぶ 「アメリカでの研修を生かして日本の障がい者雇用の発展に尽したい」 ・研修内容について 私はアメリカ合衆国カリフォルニア州にて、アメリカの障がい者に対する就労支援、関連する自立支援サポートについて学ぶため、2014年1月から6月までの約6か月間の研修を行ってきました。研修内容は、カリフォルニア州オークランドに位置する重度障がい者を対象とするデイプログラムを提供するCerebral Palsy Center for the Bay Areaという非営利団体でのインターンとしての活動を中心に、近隣の障がい者サポート団体の視察やイベントへの参加、障がい者アクティビストの方たちとの接触・インタビュー等を行いました。結論として、アメリカでは、様々な就労支援団体があること、企業への就業以外にも働く方法が確立されていること、仕事をするにあたり一人ひとりの目的にあったサポートを受けられることがわかりました。 ・CP Centerについて まず初めにCerebral Palsy Center for the Bay Areaについて説明したいと思います。CP Centerはカリフォルニア州アラメダ郡オークランドに位置する非営利団体です。1939年に当時、普通学校での教育が受けられなかった脳性まひの障がいを持つ子供の親達が中心となって設立されました。現在では、成人の発達障がいを持つ利用者にデイプログラムサービスの提供を行っています。発達障がいとは知的障がい、脳性まひや自閉症、てんかんなどの障がいを指します。利用者は90名ほどで35名ほどのスタッフの方が働いています。利用者のほとんどが身体と知的の両方に障がいを持っています。彼らはリージョナルセンターという地域センターを通してCP Centerに入所します。 リージョナルセンターとは、発達障がいを持つ人々を対象として、障がいを持つ当事者やその家族の話に耳を傾け、情報提供し、サービスやサポートのコーディネーションをするパートナーとしての機関です。リージョナルセンターの職員(ソーシャル・ワーカー)が中心となり、関係するすべての人(親やその他家族、担当医師・看護師、車いすなどの装具業者など)を集め、当事者の目的のためにどういったサービスやプログラムが受けられ、どういったサポートが必要かを話し合い、具体的な目標を設定し、計画を立てます。その計画をIndividual Program Planと呼びます。このIPPは当事者本人にすべての決定権があり、当事者の意向が全てプランに反映されます。 アメリカには、ADA(アメリカ障害者法)という法律があり、障がい者が他の障がいを持たない人と変わらない平等な権利を持つことが法律によって定められています。さらに、カリフォルニア州にはランターマン法という発達障がいを持つ障がい者のための法律があり、こちらにも障がい当事者の選択権や権利保護が定められており、IPPが当事者の意向をもとに作成されることが記載されています。IPPをもとに障がい当事者は各支援機関から学習支援、就労支援、移動支援、住宅支援、介護支援、必要器具・設備の提供などのサービスを受けることができます。IPPに組み込まれたサービスやプログラムの費用はリージョナルセンターから各機関に支払われますので、利用者は無償で受けることができます。デイプログラムを希望する当事者には、各エリアのプロバイダー施設を通してプログラムが提供されます。CP Centerはそのプロバイダー施設のひとつにあたります。   CP Centerのスタッフは、所長、副所長、スーパーバイザー、プログラムカウンセラー、広報担当者、会計責任者が管理職にあたり、実際にプログラムを提供するプロバイダーとそのアシスタントが十数人、利用者の身の回りを介助するアテンダンススタッフが十数人で運営されています。また、利用者の中には医療的ケアを必要とする方もいるため、週に何回か看護師資格のある方も訪れます。 利用者は、基本的には週5日(月~金)、朝9時から午後3時までの間CP Centerでのプログラムを受けています。プログラムは午前のクラスと午後のクラスに分かれていて、1日2つのクラスを受講します。利用者の中には、カレッジや他のプログラムプロバイダー施設と両立して通っている方もいらっしゃいます。 通所に関しては、ほぼ全ての利用者がパラトランジットというドア・トゥ・ドアで目的地までの移動をサポートしてくれる障がい者専用のバスを使用しています。パラトランジットは、利用者が定期的に行く必要のある場所(職場や学校、プログラム施設、病院など)への移動に関しては無償で利用できます。移動が日本に比べ容易にできることで、障がい者が家や施設の外に出て活動することが一般的に可能になっていることの一つの大きな要因だと思います。日本でも、障がい者の移動をどのように容易にできるかが今後の自立生活、雇用発展の一つの大きな課題だと考えます。 CP Center内にはコーディネーターと言われるポジションのスタッフが2人いて、彼らが利用者一人ひとりのプログラム計画を立てます。こちらも、IPPと同じように利用者の意見や希望をもとに作成され、それぞれ個人の目標が設定されており、それを達成するためにプログラムが組まれていきます。センター内では年4回(クオーターごとに)利用者、親・家族、カウンセラー、対象のプログラムプロバイダー、その他関係者がミーティングを行い、利用者の目標の達成度や満足度、問題点などについて話し合い、必要に応じてプログラムの調整を行っています。 CP Centerが提供するプログラムは大きく2つに分かれます。一つ目は、ローレベルプログラムといい、知的障がいが重い方が中心に参加しており、基礎的な知識や学習能力を身に付けたり、周囲とコミュニケーションを取るための訓練やレクリエーション的なプログラムの提供をしています。もう一方は、ハイレベルプログラムになり、コンピュータスキルを身に付けるためのプログラムや就業に関するプログラム、自立生活に関する情報や社会情勢を学ぶプログラムなど自立生活を行うために必要な知識やスキルを学ぶプログラムがメインとなっています。利用者の習熟度によってローからハイのクラスにレベルアップしていったり、またはほかの施設に移っていったりというケースもよく発生します。また、利用者が、プログラムが自身にあっていないと判断した場合にはプログラムの変更、または施設自体を変更することが可能になっています。そういった相談の窓口をCP Centerのカウンセラーが担当しています。 ・CP Centerの就労支援プログラムについて 次にCP Centerの中のスモールビジネスプログラムの詳細について説明したいと思います。このプログラムは、利用者への就業機会の提供と個人ビジネスを行うにあたってのノウハウの提供、利用者のビジネススキルの習得を目的としたプログラムです。私はCP Centerでの研修期間の大半このプログラムに参加して、実際に利用者とスタッフと共に働きました。 このプログラムで展開されているビジネスの種類は大きく3つ、販売ビジネス、自動販売機ビジネス、郵便事業に分かれています。スタッフはスーパーバイザー1名、プログラムプロバイダー2名、アシスタント2名、郵便事業担当スタッフ1名の6名体制で行われています。利用者は15名ほどです。利用者一人ひとりの目標は、プログラムで就業スキルを身に付け、就職を希望している方から、このプログラムを基盤に自身のビジネスを展開していきたいと考える方など様々です。 郵便事業プログラムはスモールビジネスプログラムの中では一番ローレベルに該当するプログラムです。主に利用者の中でも知的障がいが重い方が参加しています。参加者は4名程度(時期によって異なります。)で、不定期で依頼があるときだけプログラムが行われます。顧客は地域の企業がメインとなり、そこから依頼をもらい、ニュースレターやダイレクトメールなどの郵便物の発送事業を行っています。内容は、梱包・封入作業や、切手貼り、など作業的なものが中心です。工程によって分担制になっており、各セクションを一人ひとりが担当します。内容的には日本にもありそうなものですが、依頼企業は地元の大手企業が中心で、企業側にもCP Center(障がい者支援団体)に依頼を出すと郵便料金が安くなるなどのメリットがあり、依頼を出す企業とCP Centerがしっかりと利害関係が築けていることが日本との違いではないかと思います。 次に、自動販売機ビジネスですが、こちらのプログラムはCP Center内と外部に設置された自動販売機の運営を行うプログラムです。4名ほどの利用者が参加しています。内容は、商品の搬入・入れ替え、賞味期限切れ商品の破棄、売り上げ金回収、PCを使用した商品発注、在庫管理、売り上げ入力等があります。比較的知的障がいが重い利用者が搬入作業等の作業系の仕事を担当して、数値に強い利用者がパソコン業務を行うように、レベルによって担当する仕事が分かれています。入力スキルなどパソコン操作の基本スキルの習得などが可能になっています。 スモールビジネスプログラムの中で一番大きいプログラムはコーナーストーンと呼ばれる販売ビジネスプログラムです。利用者それぞれが希望する方法でビジネスを展開し、商品を販売しています。Art製品・障がい者向けのグッズ販売ビジネス、Tシャツ販売ビジネス、インターネット販売ビジネス、の3つに分かれています。 そのうちインターネット販売ビジネスは、販売ビジネスのプログラムの中で一番大きく、5人の利用者が参加しています。彼らは、カリフォルニア州のビジネスライセンスを取得しており、銀行ビジネスアカウントを所有しています。よって、彼らは個人事業主であり、消費税を徴収し、行政に収める資格を持っています。彼らの合言葉は「利益が出なければビジネスではない。」です。念入りな市場調査、競合他社をリサーチし、価格決定を行い、商品を販売しています。金額自体はそれほど大きいものではありませんが、ビジネスの基本をそれぞれが学び、実際に展開しているところに驚きました。 このネット販売ビジネスは、今後の日本の就労支援プログラムとしても活用できるプログラムだと考えられます。実際に日本の重度障がい者は公共交通機関を使用したコンスタンスな通勤が困難な場合が多く、日本の就労の機会を手に入れられないのが現状だと思います。しかし、このウェブ販売ビジネスは場所にかかわらず自宅等での活動が可能なのがキーポイントだと思います。また、就労に必要なPCスキルなども盛り込まれた実用的な職業訓練としても有効だと思います。私の将来の目標としては日本の障がい者を対象とした就労支援活動です。職業訓練や職業紹介などを中心に行っていきたいと考えています。その中でこのプログラムを取り込み、今まで就労機会に恵まれなかった重度障がいを持った方たちにも就業の機会を与えるきっかけになるのではないかと思います。 ・研修で学んだこと この研修で私が学んだことは、アメリカでは障がいを持った方が自発的に社会へ出る活動をしているということです。実際に、外に出かけると毎日何人もの車いすの方を見かけました。日本で私の住んでいる周りでは正直あまり会うことはありません。統計的に考えても障がい者の人口割合自体はあまりアメリカと日本でも変わらないと思います。そういったことから人々の意識の中に街に障がい者の人がいることが当たり前のことになっているのです。経済的に考えた時に、消費者としてお店にやってくる人の何割かは障がい者であり、人材を募集する際に応募してくる何割かは障がい者の可能性があるというのが予測されるので、商店は障がい者も利用できるように店を設計しなければならないですし、採用企業は職場を整えるなどを行うことが一般的になっているのだと思います。 また、障がいを持った方の支援についてですが、支援資金については国や州からの出資が大きいのですが、実際にサービスを提供するのが非営利団体で、それらはもともと障がい当事者によって設立されたものも多いので、よりサービスを受ける側に立った現実的な支援が行われていると考えます。就労支援についても、就職率を上げることだけが目的ではなく個別のプランを立て、当事者が自身の目標の仕事に就くにはどういったプロセスが必要でそのプロセスを経るためにどういった支援が必要かということを考慮してサポートしていきます。また、障がいを持った人の職場での待遇、賃金や人事などが他の障がいを持たない人と平等に行われることを目的としています。日本では、個々の計画に合わせた就労支援プログラムや職場での障がい者の立場などについてはアメリカに比べとても遅れていると思います。その現状を変えるためには、法律の改正や政策方針も大切ですが、一番は当事者一人ひとりが社会に参加して人々と関わりを持ち、さらに理解を深めていくことだと思います。CP Centerの副所長であるビルは私にいつもこう言っていました。 「どんなに大きなことも、はじめは小さな一歩から始まる。達成するまでは、不可能に見える。」 私も一人の当事者としてこの研修の経験を活かし、自身のビジョンを見つめ、日本の雇用発展のために今後地道に活動をしていきたいと思います。様々な経験を経て自分の視野を広げることができた素晴らしい研修期間でした。貴重な機会をくださった愛の輪関係者の皆様に心からお礼申し上げます。ありがとうございました。 知的障害者グループ研修生:OSAMURAI☆じゃぱん研修報告 研修期間:2013年8月7日~8月12日 研修国:アメリカ ロサンゼルス 研修機関:キャニオン・ベルデ、スターハウスⅡ、ポモナバレー・ワークショップ、マイカルズ・ラーニングプレイス 研修テーマ:アメリカ・ロサンゼルスの福祉関係機関や施設を訪問することにより、知的障がいのある人たちが自立生活を実現させていくには、「どのような環境で、どのようなトレーニングを受けているのか」を、自分の目で見て、自分の体で確かめることを目的とする。 研修生:吉田 佑莉香さん(群馬県)、後藤 真人さん(神奈川県)、宇井 智恵さん(愛知県)、谷口 依久実さん(和歌山県)、西村 昭人(福岡県) アドバイザー:谷口 明広さん(実行委員) 「同じ障がいのアメリカの人達と触れ合って明るく、元気に生きてゆこうと勇気をもらいました」 ・ロサンゼルスの施設を訪問 キャニオン・ベルデ(Canyon Verde”Day Activity Center) ディ・アクティビティ・センター。通所者は54名で、12名のスタッフがいる。通所者の障がいは、知的障がい、自閉症、精神障がいが主で、車イスの人も問題はないが、あまりにも障がいが重い人は利用を断る場合もあるとのことであった。年齢は19歳~60歳が対象であり、利用期間の制限はない。「学校の延長線上にあるセンター」という位置づけであるとのことであった。 この施設は、もともとは幼稚園であった施設を利用しているため、中庭を囲むように10ほどの部屋が配置されている。プログラムについては、各部屋で絵画、音楽、調理、コンピューター、社会性、意思伝達などが用意されており、各自で「スタートしたい部屋」を決めると、概ね30分ごとに時計回りで次々にプログラムを渡り歩くようになっている。個別支援については、一人ひとりの利用者につきプログラムごとに個別の課題が設定されており、コーディネーター、施設スタッフ、本人、家族が話し合って決めている。 さらに、メンバーの中には、外での活動を希望し、またRCのIPPでもそれが目標である人もいるため、現在は1名が宅配ピザの店舗で実習し、また別の3名が、地域で生活する高齢者にパソコンを教える、ピアノを弾いて一緒に過ごす、話し相手になりながらランチを一緒に食べるなどのボランティア活動を行っている。 「スターハウスⅡ」グループホーム(Group Home“Star HouseⅡ”) このグループホームは、1988年に男性障がい者を入居対象としたStar HouseⅠに続き、女性障がい者6名が入居するグループホームとして設立された。 グループホームの実際の運営は、専従のスタッフ(世話人)であるブリジット氏が平日を担当、残りを他のスタッフ数人でまわしている。スタッフの賃金については、最低賃金法で定められた時給$8.25を最低基準に、経験年数や時間帯等によって$10から最大$15まで支払われている。スタッフルームは、広くはないが小奇麗なホテルの一室といった感じで、ブリジット氏も、賃金を含めて満足しているとのことであった。また、週末には、大学生のボランティアが多く訪問し、入居メンバーと交流しているとのことであった。 入居者の1人である日本人のみどり氏の父親と場所を変えて面談し、利用者の立場からお話を伺った。まず費用負担については、月当たり$1,100が利用料で、その支払い内訳は本人の年金から半分、父親の年金から半分を賄っている。そのほかに、強制ではないが、年間最低$2,000の寄付が求められる。これは、お金でなくても良く、歯科医がメンバーに$2,000分の歯の治療を提供するケースもあるとのことであった。入居に際して、明確な入居の基準はないようであるが、ある程度の身辺自立が可能な人で、なおかつ費用負担が可能な人でないと利用しにくいという印象を受けた。 ポモナバレー・ワークショップ(Pomona Valley Workshop) 当ワークショップは、45年前に設立され、現在は全体で約400人の障がい当事者が所属している。提供されるサービスは、主に作業によって工賃を稼ぐことを目的としたProduction floor(日本では、就労移行支援・就労継続支援等に相当)、日中活動と生活訓練を目的としたDay service(日本では、生活介護に相当)、主として仕事をリタイヤした障がい高齢者を対象としたSenior training program(日本では、この部分に特化した事業は存在しない)と大きく3種類に分かれるが、個々のサービス利用については、リージョナルセンターによって作成されたIPPにしたがっている。また、授産製品や企業からの寄付物品、中古物品等を販売する常設販売店(Thrift shop)を併設している。 まずProduction floorについてであるが、普段は大小の商品をパッケージングする作業、ネジの袋詰め作業など、日本の授産施設でも行われている各種作業を行っているが、調査で訪問した際には、TVショッピングの企業から「ドアの隙間風防ぎスチロール」の大量受注があり、工場・作業員総出で対応している状態であった。企業との関係については、41年の実績を元に渉外担当職員が担当しているが、大別してConnection、Tie up、Back upという関係を結んでおり、当セクションに限って言えば、例えば「企業からの社会貢献」といった関係はない。また、利用者の工賃については、基本的に法律に定められた最低賃金をベースにするが、一般労働者の労働力を100として「その人」の労働力を算出し、最低賃金の%相当が支払われる。つまり、例えば労働力20%換算の利用者の場合、時給$8.25(州の最低賃金は$7.50、工場労働者は$8.25)の20%つまり時給$1.65が「その人」の賃金水準となるのである。さらに、これまで当セクションを経て周辺企業へ就労した利用者が76人おり、現状ではそのほとんどが継続的に雇用されているが、今後は3~8名のグループで就労するなどの工夫も考えている。 またDay serviceであるが、このセクションでは広い意味で「コミュニティに出て行くこと」が活動の主目的となっている。スタッフはProduction floorより手厚い概ね4対1人で、具体的なプログラムとしてはCommunity skill training・social skill trainingを提供している。さらにSenior training programではシニア版のSSTとして、コミュニティに存在する一般の老人デイサービスに参加するための支援なども実践している。日本と同様にアメリカにおいても、障がい者に対する高齢者からの偏見は大きく、最初はスタッフがボランティアとして入ることによって関係を作り、追って高齢障がい者が少しずつ参加するなどの工夫をしている。 マイカルズ・ラーニング・プレイス(Mychal’s Learning Place) 当センターは、5歳から17歳(high schoolの規定により22歳まで延長あり)の学齢期にある障がい児40名について、概ね14時から19時の時間帯でAfter School Program(放課後活動)を提供している。その狙いとしては「生活スキルを学ぶ」となっているが、料理・洗濯・掃除といったIADLの獲得に留まらず、釣り・ドルフィンウォッチング・ボーリング・野球観戦といった余暇活動への支援も実践している。それには、当センターの設立・運営者が「障がいをもった我が子を亡くした父親」であることもあり、「この子らは、社会が思うより遥かに高いレベルの生活を送ることができる」ということを理念としていることに由来する。スタッフについては、専従スタッフのほかに、福祉職を目指す大学生がアルバイトとして活躍している。 また、新しい取り組みとして、主として16~17歳の児童を対象に宿泊プログラム(48時間のパイロットプログラム)を実施している。宿泊場所には、当該地域にあるHotel Mariottなどを活用し、4人一組のグループ活動を展開している。このプログラムについては「ただのお泊り」にならないためにも帰宅後のフォローアップが重要となり、また宿泊費用等もかかるため家族の理解と協力が不可欠となるが、面談で「この子が25歳になったとき…」といった話をしても、自身がまだ若いためか我が子の地域自立についてピンと来ない親も多く、家族とどのように連携していくか、当該児童を中心としてvalue of familyをどう評価・活用していくかが今後の大きな課題である。 ・帰国後素晴らしい成長を遂げた研修生たち この研修に参加した知的障がいのある5人の研修生は、個々が素晴らしい能力と才能を身に付けていたことに対して、彼らのご両親を始めとする支援者の皆さまに対して感謝と尊敬の意を表したいと思います。彼らは、本当に素晴らしかったです。 研修の訪問先は、4機関であったが、「キャニオン・ベルデ」では、利用者とともに絵画教室に参加したり、パソコンゲームを利用した算数の勉強も体験することができた。また、「スターハウスⅡ」では、研修生全員から「こんなグループホームだったら、住んでみたい」という声が聞かれた。そして、ワークショップでは、利用者さんの作業を見つめるだけで参加することができなかったが、真剣に働く姿を見て、多くのことを考えたようである。最後に訪れた「マイカルズ」では、利用者さんと共に、ボーリング大会を企画していました。一人が2ゲームを投げて、点数を競い合った。このボーリング場は、「マイカルズ」の支援団体でもあるので、周りに気を遣わなくても大丈夫であった。研修生のリーダーである西村さんの趣味がボーリングであり、ストライクを出して、みんなの注目を浴びていた。 最後の日は、「障がいがあっても、遠慮なく遊ぶことができるのか」をテーマに、ディズニーランドおよびディズニー・カリフォルニアにおいて、レクリエーション研修を実施した。彼らの感想は、言葉よりも態度や姿勢、そして声のテンションで理解できた。何の差別も感じない1日を過ごすことができたのである。この経験は、彼らにとって大きな1日となった。この開放的な空間は、日頃、彼らを苦しめている常識や習慣というものを感じなくても良かったし、差別や偏見という眼差しを浴びない1日でもあった。 研修後の彼らは、素晴らしい成果を見せてくれている。西村さんは、自分が働く部署の「真のリーダーに成長した」と事業所の職員さんから連絡が来ている。宇井さんは、ますます仕事への意欲が強くなり、職場のリーダーになりつつあると聞いている。吉田さんは、研修後に「障がい者ファッション誌」の表紙に採用されるなどの活動を地道に続けながら、就労継続支援事業所に通所している。後藤さんは、研修後、新たな気分で仕事に打ち込み、一般就労を目指して頑張っている。谷口さんは、新しい事業所へ移り、お弁当の販売におけるリーダーに成長している。苦手であった金銭授受に関しても、積極的に取り組んでいる。持ち前のキャラクターで、お客様にも根強い人気を誇っており、彼女によって弁当の販売が急増している。 このように研修生の一人ひとりは、研修の成果を遺憾なく発揮してくれている。「知的障がいのある人にリーダーは難しいのでは」という声も聞かれるが、彼ら5人という限定した研修生を見ても、その成果は計り知れないものがある。自分個人のために研修留学し、研修成果を自分自身のためだけに使用している昨今の状況の中で、短期間であるが、知的障がいのあるリーダーを育成している事業は、他の研修制度に例を見ない素晴らしいものであったと自信を持って言及しておきたい。関係者の皆さまに、心からの御礼を申し上げます。ありがとうございました。(文責 谷口明広) ・研修生のレポート 西村昭人さん この研修でたくさんの事を学び、体験することができました。今回の研修に行かせてくれた「ダスキン愛の輪基金」の方々、一緒に行ってくれた谷口先生他の方々にとても感謝しています。本当にありがとうございました。 宇井智恵さん アメリカ研修は、ゆめのような時間でした。いろんな施設を見て、いろんな人に会って、ボーリングもやったり、とても楽しかったです。一番楽しかったのは、ディズニーランドで遊んだことです。車いすの人も乗れてすごいなと思いました。一番心に残ったことは、女子のリーダーとしてかつやくできたことです。とってもうれしかったし自信がつきました。 吉田佑莉香さん 私は初めてアメリカ本土に行って思ったことは、日本と違って障がいを持ってる人に差別がないということです。日本のディズニーランドでは車いすで乗れるアトラクションはありません。アメリカでは車いす専用のゲートがあって感動しました。アメリカの作業所は一つの作業所に7つの仕事があり、すごいなと思いました。アメリカで学んだたくさんのことをいろんな人に教えたいと思います。 後藤真人さん 今回の研修で一番思ったのは、同じような障がいを持っているアメリカの人達が、考え方がしっかりしていて、自分のやりたいことがはっきりと分かっていることです。僕も自分の意見をしっかり持ちたいです。この経験を就職活動や趣味に役立てたいです。ありがとうございました。 谷口依久実さん アメリカの良いところはみんなが笑顔だということです。みんなが笑顔なので幸せな気持になれました。日本の作業所でもみんながいつも明るく、笑顔で仕事ができるよう仲良くなる気持ちを作っていきたいと思いました。みんなでゆめをめざしてがんばりましょう。 公益財団法人ダスキン愛の輪基金 〒564-0063 大阪府吹田市江坂町3-26-13 TEL.06(6821)5270 FAX.06(6821)5271 http://www.ainowa.jp