ダスキン障害者リーダー育成海外研修派遣事業  第39期(2019年度)研修派遣生報告書「自立へのはばたき」 ジュニアリーダー育成グループ・ミドルグループ編 第39期研修派遣生(敬称略) ジュニアリーダー育成グループ研修(視覚障がい者ユースグループプログラム) 近藤悠斗 坂本奈々美 野呂美遥 廣田成美 ミドルグループ研修生 STEっ子視察団 田中鈴音 曽田夏記 工藤登志子 ダスキン障害者リーダー育成海外研修派遣事業とは  1981年、障がい者の社会への完全参加と平等の実現をめざして国連で決議された「国際障害者年」にちなみ、地域社会のリーダーとなって貢献したいと願う障がいのある若者たちに、海外での研修の機会を提供する「ダスキン障害者リーダー育成海外研修派遣事業」がスタートしました。  1982年に10名の研修派遣生を初めてアメリカへ派遣して以来、これまで40年間に延べ528人の研修派遣生を輩出し、帰国後その多くの方々が全国各地で、自立生活運動、政治、学術、教育、スポーツなど様々な分野でリーダーとして活躍されています。  今回の「自立へのはばたき」は、2019年度(第39期)の研修派遣生の研修報告書をまとめさせていただいたものです。ジュニアグループ4名とミドルグループ研修生の3名が、夢と希望を持って世界各地で、何を感じ、何を学んだかをぜひご一読ください。  第39期研修派遣生の皆様、研修をサポートされたスタッフの方々、ご関係者の方々、愛の輪会員の皆様のお力添えに対しまして、改めて感謝申し上げますとともに、今後も「ダスキン障害者リーダー育成海外研修派遣事業」に格別のご理解とお力添えを賜りますよう、心からお願い申し上げます。 ※研修報告書の研修生のプロフィールは、研修期間中のものです。 ※障害の「がい」の文字表記について 事業名称等定款に記載されている文言並びに法律用語については従来通りの漢字表記とし、それ以外については「害」を「がい」とひらがな表記とさせていただきます。 ダスキン障害者リーダー育成海外研修派遣事業の流れ (第39期研修派遣生) 2018年 7月1日 募集開始 2018年 11月15日募集締切 2019年 1月27日書類選考 2019年 3月2日 面接審査 2019年 3月研修派遣生決定 2019年 3月29日〜30日 事前研修会 2019年 5月29日壮行会 2019年 7月17日〜8月1日ミドルグループ研修 グループ名「STEっ子視察団」研修派遣 2019年 8月1日〜8月10日ジュニアリーダー育成グループ研修派遣 研修派遣 2020年 10月23日成果発表会・修了式 ダスキン障害者リーダー育成海外研修派遣事業実行委員会 委員(敬称略・順不同) (任期:2021年4月1日〜2023年3月31日) 青松利明(あおまつとしあき)筑波大学付属視覚特別支援学校教諭 青柳まゆみ(あおやぎまゆみ)愛知教育大学准教授、本研修派遣事業第18期研修派遣生 金塚たかし(かなづかたかし)大阪精神障害者就労支援ネットワーク統括所長 尾上浩二(おのうえこうじ)認定NPO法人DPI(障害者インターナショナル)日本会議副議長 小林洋子(こばやしようこ)筑波技術大学障害者高等教育研究支援センター講師 長瀬 修(ながせおさむ)立命館大学教授 インクルーシブインターナショナル事務総長 福田暁子(ふくだあきこ)全国盲ろう者協会評議員 国際協力推進委員 世界盲ろう者連盟事務局長 小林昌之(こばやしまさゆき)日本貿易振興機構アジア経済研究所 主任調査研究員 ジュニアリーダー育成グループ研修(視覚障がい者ユースグループプログラム) 近藤 悠斗 さん 岡山県 坂本奈々美 さん 大阪府 野呂 美遥 さん 東京都 廣田 成美 さん 神奈川県 研修期間 2019年8月1日~8月10日 研修国 イギリス 研修テーマ @日常生活・情報・文化・教育・就労等における障がい者のアクセシビリティについて A障がい者の自立に向けた努力や取り組み B障がい者リーダーの活動状況や想い C異文化体験 D自立への意識・コミュニケーション力・他人への思いやり・リーダーシップ等の向上 研修先・研修内容 キャッスルショウ野外活動センター スコーン作り体験 オールダム教育局 国立炭鉱博物館 異文化交流パーティー 大英博物館 エジプトギャラリー ヴィクトリア&アルバート博物館 RNIB セントポール大聖堂 日本大使館 ケンブリッジ大学 スタッフ(敬称略) 青島 優 石川 英司 佐藤 紀子 松崎 茜 宮ア 晶子 アドバイザー 青松利明(実行委員) タイトル まずは行動することから始める 1 近藤 悠斗さん  私にとってこの研修はとても充実したものになり、一生の財産となったと感じています。仲間や先生方と過ごし、様々な方と出会い、多くの活動に挑戦することができたこの研修は、本当に貴重な時間でした。私は、三つの目標を立てていましたが、どれも達成することができたと思います。  研修で、特に印象に残ったことが三つあります。  一つ目は、「今からでも何でもできる」と思えた事です。私は、視覚障がい理系教育の発展に貢献したいと考えてきましたが、今の自分にはできないのではないかと思っていました。しかし、イギリスで活躍されている視覚障がい者の方と出会う中で、「失敗はしても挑戦することはできる」と思うようになりました。  二つ目は、イギリスと日本の良さに気づけたことです。イギリスと日本の教育制度等は大きく異なっていましたが、それぞれの良さを知ることができたと思います。例えば、個々の障がい児のニーズに適切に対応しようとするインクルーシブ教育の体制や、RNIBによる視覚障がい当事者の意見発信などは、日本にはないイギリスの良さだと感じました。逆に、視覚障がい教育の専門性や大学での学生サポーターによる障がい学生支援などは、日本の良さだと思います。  三つ目は、英語がもっと話せるようになりたいと思ったことです。ホームステイや異文化交流パーティーなどで話した時間は、私にとってとても楽しいものでした。しかし、同時に相手の言いたいことがなかなか分からなかったり、自分の言いたいことが伝わらなかったりして、もどかしさを感じ、もっと英語が話せるようになりたいと強く思いました。今後、研修で感じた気持ちを大切にしながら、努力したいと思います。  この研修から、私は、自分が今後取り組みたいことを具体的に見つけられたように思います。それは、世界中の視覚障がい者がより強い繋がりをもって、協力できるようにすることです。各国それぞれの取り組みの良さは、他の国の視覚障がい者の学習や生活の改善に役立つと思います。また、理科の実験方法などを世界規模で工夫を考案し、改良することができれば、視覚障がい教育の発展につながると思います。課題を共有したり、大学進学などの困難な問題に一緒に取り組むことができれば、もっと多くの分野で視覚障がい者が活躍できるようになると考えます。  今から少しずつ自分にできることをしていきたいと思います。例えば、日本で、視覚障がい者のために開発された理科の実験方法を英語の文章にまとめて発信すれば、海外の人に役に立ててもらえると思います。私が知ったイギリスの取り組みを日本で紹介することもできると思います。  研修は終わりましたが、今新たなスタート地点に立っているように感じています。今回頂いた貴重な機会を活かしていけるように頑張りたいと思います。  最後に、スタッフの方々、ダスキンの方々をはじめ、研修をサポートして下さったすべての方に心から感謝しています。そして、共に充実した時間を過ごすことができた仲間とイギリスで出会った方々に感謝しています。本当にありがとうございました。  この研修が今後も続いていくことを願っています。 2 坂本奈々美さん  この研修は、全てが出会いと発見の連続でした。たくさんの方とお会いし、貴重な場所へ訪問でき、スタッフの方々からも色々な話を聞いたり、周りの様子を詳しく教えていただいたりして、学ぶことや吸収できることで溢れていました。イギリスで過ごした十日間は、私の人生において大きな財産になりました。  私は、「イギリスのインクルーシブ教育について知る」、「イギリスの視覚障がい者とたくさん話し、異文化交流をする」という二つの目的を挙げていました。研修でこれらの目的は達成できました。  今まで、共生社会を実現するには、障がい者も健常者と同じ環境で過ごすことが必要で、そのために日本もインクルーシブ教育を採り入れていくべきだと考えていました。しかし、この方法が必ずしも全てを解決する訳ではなく、専門性の維持などに関して、まだまだ課題があると分かりました。そして、日本の盲学校が高い専門性を持っていることは大きな良さであると再認識できました。一つの方法が大きな解決策に繋がるかもしれないと正解を求めていた私は、まだまだ問題を一面的にしか見られていなかったと思いました。  また、現地の人と会話する中で、前にも増して自分の言葉が相手に伝わる大きな喜びを得られました。移動中のバス内で同年代の人とお互いの学校や趣味についてずっと話せたことや、訪問先で一部ではありますが、通訳を介さずに質問をできたことはとても嬉しかったです。私の英語力は未熟なので、相手に伝えたい、言っていることを読み取りたいという思いを持ち、もっと英語を学び、たくさんの人と深く語り合えるようになりたいと思いました。そして、異文化交流の一つとして、フロアバレーボールを紹介できたことは、これからこのスポーツを世界に広めて行きたいという目標の第1歩になったと強く感じました。これからスポーツを通して言語や文化の壁を越えられる交流の場も作っていきたいです。  私に勇気を与えてくれたのは、Noel Thatcherさんの、「やろうと思えば絶対できる」という力強い言葉でした。私たち障がい者は、健常者と全く同じようには行動できず、不利になってしまうこともたくさんあります。しかし、決して弱者という訳ではないのだと思いました。障がいがあるからこそできることや見えてくるものはもっとたくさんあります。やり方を工夫すればできることは広がり、諦めずに自分の信念を持って動き続けることが一番大切だと教わったので、私もこれを行動で示せる人になりたいです。そして、発展途上国で視覚障がい児教育を充実させるという私の夢を実現できるように、これからも努力していきます。  このような素晴らしい研修がこれからも継続されることを心から願っています。そして最後に、この研修に同行して下さったスタッフの皆様、イギリスや日本で支えて下さり、私たちに多くの学ぶ機会を与えて下さっている全ての皆様に感謝申し上げます。本当にありがとうございました。  私はこの先、障がい者リーダーとして社会に貢献できる人になることを約束いたします。 3 野呂 美遥さん  私はジュニアリーダー育成グループ研修を通して学んだことが三点あります。  一点目は、イギリスと日本の福祉制度の違いです。RNIBを訪問し、公共政策部長の方の話を伺った際に、イギリスでは障がい者に対する援助が進んでいることを知りました。具体的な支援の内容として、「視覚障がい者の家庭を訪問してパソコンや補助具の使用方法の指導をすること」や、「支援機器の貸し出し」や「資金援助」などがあります。  日本にも障害者年金制度はありますが、家庭を訪問しての指導などはまだまだ広まっていないため、イギリスの障がい者支援が進んでいることに大変驚きました。  二点目は、イギリスの文化です。私は、この研修の参加目的の一つに、イギリス文化に体全体で触れて日本との共通点や違いを学びたい、ということがありました。この研修では、様々な職業の人に出会い、母国語ではない英語を使って話し、異なる文化の人々と関わることなど、日々の一つひとつの出来事から、日本との違いを感じることが出来ました。具体的に思ったことは、イギリス人は思ったことや感じたことがあると、すぐに相手に言葉で伝えます。ホームステイの時、日本から持ってきたお土産をホストファミリーに渡すと、“Cool!” とほめてくださったり、日本の学校について説明すると、疑問に思ったことをすぐに質問をしてくださったりと、自分の思いを率直に相手に伝えていることに気がつきました。私は、英語で自分の思いをはっきりと伝えることの大切さを学び、同時に、はっきり伝えるだけではなく、相手を思いやりながら伝えることの重要さを実感しました。  文化面での発見では、食文化が印象に残っています。イギリスの伝統的な料理であるフィッシュアンドチップスや、パエリア、クスクスといった各国の料理を通して、イギリスには様々な人種や国籍を持つ人が集まり、国を発展させていることを感じました。  三点目は、インクルーシブ教育についてです。ケイ先生の講義で、イギリスにおける障害者教育制度について学びました。イギリスでは40年ほど前から、インクルーシブ教育(障がい者を一般校で教育する制度)が始まっていることや、視覚障がい者の生徒には週に一度、専門の先生が学校でパソコンを教えることなどもサポートをしていることを知りました。日本では今、障がいのある生徒を一般校でどのように教育していくのかが議論になっています。イギリスではインクルーシブ教育が国全体に広まっていますが、重度の重複障がいを持つ子供を一般校でどのように支援するかという新たな問題もあるということも学びました。日本の障害者教育も、これからどのようにして発展させたらよいか、私たちが深く考えていかなければいけないと感じました。  この研修では、多くの人に出会う機会があり、たくさんの方から多くのアドバイスを頂きました。毎日色々な方から多くの話を聞き、優しい言葉をかけて頂き、たくさんの影響を受けたので、10日間がとても短く感じられました。また、英語で話したり、お店で食事をしたり、街中を歩いたりという、外国で生活してみるという一つひとつの体験が、全て自分の自信に繋がったように感じています。研修に参加する機会を頂けたことは、私の大きな財産です。この研修で学んだことをこれからの糧にして、人や社会に貢献できる人間になりたいと思っています。そして、自分の目標に向かって、諦めることなく頑張っていきたいと心に決めています。  引率のスタッフの皆様、ダスキン愛の輪基金の皆様をはじめ、たくさんの方にお世話になり、本当にありがとうございました。私を大きく変えてくれたこの研修が、これからも続いていくことを願っています。 4 廣田 成美さん  今回の研修で本当にたくさんのことを経験させて頂きました。  まず、1番に感じたことが英語の魅力と大切さです。私の夢でもある「フロアバレーボールを日本で普及させ、そして世界で広める」ためには、より多くの人に発信しなければなりません。そのためには英語という言語のツールが不可欠です。  そして、ホームステイや野外活動などを通して現地の人と英語を話すことで、英語の魅力を感じ、英語の学習の意欲も高めることができました。  この研修では視覚障がいへの支援や教育に関する講義をたくさん受けることができました。その中で「障がい者のため」だけではなく「みんなのため」という新しいノーマライゼーションの考え方を知ることができました。例を挙げると、「大学の講義のオンライン化」です。これは、授業についていくことが難しい障がいを抱えた学生のためだけではなく、学習の振り返りをしたい学生全員に役に立つシステムです。  このような「障がい者のため」だけではないシステムの考え方が、障がいのある人、ない人が分け隔てなく共存を図るための第一歩に繋がると思います。  そしてその「共存」をテーマに私がこれから進めていきたいことが、インクルーシブスポーツの普及です。インクルーシブスポーツの魅力は、障がいのある人とない人が一緒になってプレーでき、お互いに支え合って成り立つスポーツだということです。そしてスポーツは人との繋がりを増やし、生きがいも持たせてくれます。そのために、私が今取り組んでいるフロアバレーボールを発信していきたいです。  日本大使館では、一等書記官の方やノエルさんに「発信の仕方」という点でお話をお聞きすることができました。お話を聞く中でSNSの活用や見ている人のインスピレーションが湧くような「楽しんでもらえる伝え方」が大事だということがわかりました。私はまだ、どのように発信していけばいいのか模索している中ではありますが、まず、より多くの人に伝えるため、英語を身につけることや新しくSNSを始めてみることにしました。これからもたくさんの人にヒントを頂きながら自分のできることをしていきたいです。  ノエルさんにも「できないことをどうやってできるようにするか考えることが大切」と言って頂けたので、私もまずは行動することから始め、地道な努力を続けていきたいと思います。  この研修ではたくさんの方のお話を聞き、その方の考え方を知ることで、私自身の研修の目的にあった「世界観を広げること、将来の選択肢を増やすこと」ができました。そして、人との繋がりを大切にする、繋がりを増やすということが大切だということにも気づくことができました。  このような貴重な機会を与えて頂けた私は本当に恵まれています。このような経験ができたのも、全て、ダスキン愛の輪基金の皆様、研修の資金を募って下さった方々、そして十日間私たちの近くでたくさんのサポートをして下さったスタッフの方々、現地で私たちを迎え入れてくれた方々、家族、友人のおかげです。必ずこの経験を糧にし、人のためになる人間になれるよう頑張っていきます。本当にありがとうございました。 ミドルグループ STEっ子視察団 田中 鈴音 さん 東京都 聴覚障がい 曽田 夏記 さん 東京都 肢体不自由 工藤登志子 さん 東京都 肢体不自由 研修期間 2019年7月17日〜8月1日 研修国 アメリカ 研修機関 AccessLiving、CDR、accessboard、ADAセンター、 ギャローデット大学、 ロチェスター工科大学 研修テーマ 「クロスマイノリティ」の実践現場から学ぶ次世代の当事者運動力・他人への思いやり・リーダーシップ等の向上 研修目的 ・多様な人々が参加する運動のあり方を学ぶ ・自立生活センター内の「実践」を確実に持ち帰る タイトル 多様性を大きな力に はじめに  私たちは「クロスマイノリティ」の実践現場から学ぶ次世代の当事者運動をテーマに、シカゴのAccess Living、ロチェスターのCenter for Disability Rightsを中心に、ADAセンターやaccessboard、障がい学生を支援しているギャローデット大学やロチェスター工科大学などに研修に行き、多様な人が参加する運動のあり方を学んできました。  私たち3人が所属する自立生活センターSTEPえどがわにはじめて聴覚障がいをもつ自分(鈴音)が入り、聴覚障がい者が過ごしやすい環境を作っていったことで聴覚障がいを持つ人が少しずつ関わりはじめるようになりました。このことから、日本のCILにも車いすユーザーだけではなくもっといろんな障がい種別や生きづらさを抱えた人たちが集まって、一人ひとりの多様性を大切にしたセンターにしていけたらいいなと思うようになりました。「実践」を持ち帰るために、障がい種別・性的指向・性自認・人種・年齢・言語などを超え様々な人たちが集まりみんなで熱い運動している2つのCILでの研修を希望し、今までもこれからも一緒に運動をしていく仲間と3人で行かせていただきました。 多様性を大きな力に 田中 鈴音さん  今回の研修でCILに関わっている聴覚障がい者とたくさん出会うことが出来ました。  なかでも、聴覚障がいリーダーとして強い運動をしている権利擁護活動家の2人、アクセスリビングのアンバーさんとCDRのジョナサンさんとはたくさんの時間を共に過ごし、たくさん話をしました。アンバーさんは聴覚障がい者やLGBTQなどを中心にいろんな生きづらさを抱えた人たちの権利擁護運動を主に行っています。ジョナサンさんは権利擁護をはじめ、熱い抗議活動にも積極的に参加しています。彼もまた聴覚障がい者だけではなく、いろんな仲間たちのために闘っています。  日本のCILでは聴覚障がい者とはなかなか出会えません。それは聴覚障がい者が活動することができる環境が整っていないことが前提にあると感じています。聴覚障がい者にとって情報保障がなくセンターに情報アクセスできないことは、車いすユーザーで例えるとセンターに入るのに入口に段差があるためアクセスできないということと同様になります。本来ならば、最初からセンターに情報を保障できるものが存在していることが望ましいということです。その取り組みが多様性を受け入れることのメッセージにもつながります。  元々、アメリカでは自立生活運動とろう者の運動が同時進行されていたことにより、車いすユーザーとろう者が一緒に活動をすることがあったという背景があります。その為、CILにもろう者のスタッフが入ってくることができるような環境をつくるという考えに自然に繋がったのかもしれません。アクセスリビングの代表はろう者に入ってもらおうと思った時にまず手話通訳者を雇ったという話も聞きました。当事者が身近にいることが重要だと感じました。CDRでは、CILではまだ珍しいろう・盲ろう者向けの通訳/通訳介助サービスも担っていて、ろう者や盲ろう者が地域生活を続けるためのサービスも提供しています。例えば就職を希望している聴覚障がい者で、履歴書を記入するのに第一言語が手話であるため、英語が苦手で困っている人へのサポートを行ったり、美術館などに行ってろう者の客への対応方法のトレーニングをおこなったりもしているそうです。  スタッフもとにかくいろんな人がいて、そのなかで、CDRで行われる会議では、手話通訳はもちろん、文字通訳や資料がある場合は拡大文字、点字、事前にメールで送るなど個人のニーズに合わせた対応を徹底して行っており、誰も取り残さないという姿勢が強く伝わってきました。  また、アクセスリビングでもセンター内の会議には必ず手話通訳者がついており、もし、都合が合わず手話通訳者を準備できない場合は会議そのものを中止にするそうです。外部の会議などでも聴覚障がいスタッフが参加した時に情報保障が不十分だと感じたら、アクセスリビングのスタッフ全員が参加しないそうです。  私は仲間たち一人ひとりの境遇が違っても、話をすれば分かり合える、想いを共有しあえるという気持ちが大切であると信じています。これからも引き続き仲間たちを大切に思う気持ちを一番に当事者運動を続けていこうと心に誓いました。  研修中、通訳者が同行してくれたことによっていつでも通訳者のサポートを受けられたことは私にとって有意義な時間でした。必要な時に必要なサポートを受けられることで私が得られる情報量も増え視野が広がり、選択肢も増える。コミュニケーションが遠慮なくとれることも喜びでした。そのことから聴覚障がい者にも聞く権利、知る権利があること、それを尊重してもらう必要がある事をもっと主張していきたいと思うこともできました。  サポートして下さった皆さま本当にありがとうございました。 「ウェルカム」からはじまる多様性 曽田 夏記さん 心からの「ウェルカム」  「レインボーフラッグが入口に掲げてあるコーヒーショップでは、心が安らいでいるな、って感じるの」。これは、シカゴの自立生活センター(CIL)「アクセスリビング」の副代表でLGBTQ当事者のデイジーさんが語った言葉です。デイジーさんは続けて、「アクセスリビングの受付に、大きなレインボーフラッグが掲げてあるのに気づいたでしょ?あれは、私たちのセンターを訪問するLGBTQのひとたち、それはまだカミングアウトしていない人たちに対しても、『ここは、あなたを心からウェルカムしている場所だよ』というメッセージをハッキリと伝えるためなの。」と言いました。私は、「心からのウェルカム」が、「CILにおける多様性」を考える時にやはりとても大切なことだと感じました。  私の中で、「多様性」「障がい種別を超えて」という言葉を聴く時、また自分が発する時に、ずっとどこかで違和感がありました。それは、この「心からのウェルカム」と「必要なサポート」がない中で形だけ整えられる「多様性」は、誰の、何のための「多様性」なんだろう?という違和感でした。「多様性」「障がい種別を超える」こと自体が目的化し「やらないといけないこと」になるほど、不安や義務感から「必要なサポート」は用意されても、(あなたがここに来てくれてうれしい)という「心からのウェルカム」は失われてしまうと感じました。  逆に、自分たちの多くとは「ちょっと違う人」が私たちのセンターのドアをたたいてくれた時に「心からのウェルカム」と、その気持ちが前面に出ているような徹底したサポートがあれば、「多様性」はあとからついてくるのではないかと思いました。 「クロス」しにゆく私たち  アクセスリビングの取り組みで印象的だったことは、「障がい」コミュニティから「LGBTQ」や「不法移民」のコミュニティに手を伸ばし、パートナーシップを積極的に強化していたことでした。そして、それら実践の背景には、「そうしない限り、『障がいのある不法移民』『障がいのあるLGBTQ』といった複合的な差別を受けているひとりの仲間を本当の意味では救えない」という、現場に根差した強い理念がありました。取り組みの中には、「障がい」と「不法移民」のそれぞれの分野で活躍する弁護士たちをつなぐものや、地域のLGBTQ団体と相互にスタッフ研修をしあうなどの実践がありました。アクセスリビングのスタッフが、経験から(こうした取り組みを通じ)「両方のコミュニティが強くなれる(Both will be stronger.)」と確信をもって語っていたことが印象的でした。  米国CILの「実践の現場」から学んだことは、次世代の障がい者運動を強くするのであれば、センターの中にとどまらず、もっともっと外に出ていかなければいけないということでした。自分たちの団体の中にとどまっている限り、「クロス」する現象は当然おきないからです。障がい種別の異なる人たちとも、異なる理由で差別をされている人たちとも、さまざまな理由で生きづらさを感じている「健常者」の人たちとも、つながることはできないままです。アメリカの障がい者運動の強さは「ADA法を作る時に多様な人が参加したことが出発点」という話を、今回多くの場面で耳にしました。「ADA法の父」と呼ばれるジャスティン・ダート氏は、自分が経験していない「さまざまな差別」を学ぶことが出来る人だった、とジュディ・ヒューマン氏が述べています。未だ見聞きしていない「差別」を学ぶために自ら足を運び、さまざまな人と交わり(「クロス」し)、共通の信頼関係と深い相互理解の中で同じ目的のために一丸となれる、そんな次世代の障がい者運動を作っていきたいと思います。 「誰も取り残さない」という覚悟 工藤登志子さん  私はシカゴ、ワシントンD.C.、ロチェスターそれぞれの訪問先で多くの障がい者リーダーとお会いする機会を頂きました。彼らと直接話し、同じ時間を過ごしていくうちに、どのリーダーも“常に”、“自分以外の誰かのために”本気で行動しているという共通点に気が付きました。 ・情報保障が整っていない会議には聴覚障がいを持つスタッフだけでなく全てのスタッフが参加しない ・車いす使用者が入れない飲食店はアクセシブルになるまで歩けるスタッフも利用しない と話すアンバーさんは、シカゴのAccess Livingで聴覚障がいの当事者としてセンター内の環境整備や情報保障、権利擁護に取り組んでいます。私がアンバーさんとの会話の中で特に印象的だったのは、勤務中だけに留まらず日常生活全てにおいても常に意識が徹底していたことです。例えばアンバーさんはご自身の自宅も段差をなくし、車いす使用者やどんな重度の障がいを持つ人でも入れるようにしていました。車いすを使用していないアンバーさんにとっては、自宅の段差解消は必ずしも必要不可欠な環境整備ではありません。しかし、センターの仲間が“誰でも”遊びに来られるようにとの思いでアクセシブルにしているのでした。 車いす使用者である自分自身に置き換えてみると、車いす使用者のアクセシビリティについて考えることはあってもその他のマイノリティの人々にまで常に意識を向け続けることは出来ていませんでした。逆に、私は(車いすに乗っているから)同僚や友人宅に行けないのも仕方ないと、周囲との壁を感じつつも諦めていた部分がありました。しかし、「仕方ない」で終わらせることなく、人生をかけて徹底的に誰も取り残さない、公私共に常にインクルーシブであり続けようとするアンバーさんの影響力は大きく、周囲のスタッフも彼女に引っ張られているようでした。そのような姿はワシントンD.C.で会ったジュディ・ヒューマンさん、ロチェスターで会ったDRC代表のブルースさんを始めとする多くの障がい者リーダーたちも同様でした。私は彼らから今後の障がい者運動に必要な考え方を学ぶことが出来ました。 あらゆるボーダーを超えた 仲間たち  NCILカンファレンスでは、トランプ大統領の政権下で移民政策が進んでいるアメリカを象徴するように人種や肌の色、民族、宗教等に対する差別を訴える声も多数上がっていました。日本の障がい者団体が主催するカンファレンスではこのような光景を見ることはありませんが、アメリカの障がい者リーダーたちの多くは、「障がい者」以外のアイデンティティも併せ持ち、障がい者団体以外の組織とも積極的に繋がっていました。アフリカ系アメリカ人のケーリ・グレイさんは障がい当事者として、黒人として、女性として、さらには次世代を担う若手リーダーとしてそれぞれのコミュニティで先頭に立っていました。そして、アジアから来た、日本語を母国語とする私たちを「仲間」として受け入れてくれました。また、シカゴのAccess Living、ロチェスターのADRではスタッフ全員が総力を挙げて私たちを歓迎してくれ、少しでも多くの時間を一緒に過ごそうとしてくれました。それぞれのバックボーンが異なっていても、「誰も取り残さない」という共通理念があればみんな安心して繋がっていられる。そして「障がい者運動のコミュニティはどんな人でも歓迎されるべき。」だと実感しました。今回の研修で得た知識や気づきを大切に、これからの日本での活動に生かしていきたいと思います。 さいごに  私たちは今回の研修を通して1人が対峙している問題はみんなにとっての問題でもあるという意識を持つことが重要だと感じました。生きづらさを抱えている人たちの声を聞くことは当然、色々な理由で声を上げられない仲間たちもたくさんいるはずです。その仲間たちの声を拾い上げることも今後しっかり行っていく必要があるとも感じました。多様性を尊重し合うこと、お互いを分かり合うことはきっとできるはずです。これから私たちのセンターで、私たちの活動に入ってくれる仲間を増やして、仲間が抱えている問題を一緒に考えていきます。そして誰一人取り残されることなく、一人ひとりの多様性を見つめられるセンターにしていきます。  今回、愛の輪の研修にいかせていただき、さらにたくさんの方々にお力添えいただいたおかげで、わたしたちが目指している活動へ向けてのヒントを得ることが出来ました。サポートくださったみなさん、ありがとうございました。私たちはこれからも、より一層仲間たちが生きやすい社会になるように力を合わせて活動していきます。 公益財団法人ダスキン愛の輪基金 〒564-0063 大阪府吹田市江坂町3-26-13 TEL.06(6821)5270 FAX.06(6821)5271 https://www.ainowa.jp